Sunday, February 10, 2008

水不足

去年の夏仕事でまたインドに行きました。2006年末に行ったときとは別件で、マイクロ灌漑設備を製造している会社への融資のプロジェクトでした。

融資を検討するにあたり、クライアントの経営状況を分析する以外にも、何故その会社に、そのセクターに融資をしなければいけないのか、ということを説明できなければいけません。その結果、今まで殆ど関わることのなかった、世界の、特にインドの「水不足」問題を考えるよい機会でした。

クレジットスイス銀行のEquity Research部が2007年6月に出版したレポート「Water」によると、2025年までに58カ国(世界人口の64%)が水不足に直面するそうです。世界で水の需要が高まり、供給が全く追いついていない状況です。エネルギー危機よりも、水不足の問題の方が深刻だ、と考えている人達も少なくないようです。

今の組織に入社して一年目インフラ部で働いていたときに、電力や交通設備のプロジェクトよりも、水道のプロジェクトは色々な意味で難しいということを度々耳にしました。ということは、水不足解決もエネルギー不足を解決するよりも難しく、時間がかかるということなのでしょうか。

供給が不足しているということは、需要が満たされていないとうことなので、ビジネス的には投資機会となります。クレジットスイス銀行のレポートも、世界各地の企業が大々的に投資を行っているということを示しています。GE等の欧米の大企業にとどまらず、中堅の企業も含まれています。私が訪れたインドのクライアントも、水不足、特に農業における水不足を解決するソリューションを提供しようと頑張っている企業です。

世界の貧困層の人口の大部分が南アジアに集中しています。インドは国としての貧困度は相対的に低いですが、絶対的な貧民層の数は莫大です。そして人口の大多数が、農業に頼って生活しています。世界人口の16%、家畜の30%がインドに住んでいるといわれていますが、国土面積は2.4%、水資源は4%しか所有していません。これを聞いただけでも、もうやばそうです。

世界の水使用量の7割は農業関連といわれていますが、インドでは更に数値は高く、8割以上とも推定されています。スリランカを拠点とするInternational Water Management Instituteによると、 2025年までにインドに住む3分の1の人々が、深刻な水不足に直面するだろうということです。

それって後17年しかない...。世界規模の水不足を考えると、もうどうしようもない状況のように思えますが(実際にそうなのかもしれませんが)、何もしないわけにはいけません。インドでは灌漑された国土の割合がまだ極端に少ない、更に灌漑されていたとしても効率が悪い(水を使いすぎる)システムが多く使われています。例えばイギリスやドイツ、灌漑設備や海水淡水化の最先端をいくイスラエルの灌漑導入率は100%ですが、インドは僅か5%。日本の数値は分からないのですが、他の先進国の導入率も3割~5割以上が普通のようです。

国土の広さや地形、人口の多さも関係してくるとは思いますが、まず灌漑面積を増やし、そして効率がよりよい設備を設置することで、少しでも水不足の程度を減らすことが可能だということです。もちろんインド政府も危機感を持っていて、2004年の時点でリサーチ結果を発表し、8年間でマイクロ灌漑設備の導入を1700万ヘクター増やすと宣言しました。現在300万ヘクターしかマイクロ灌漑を導入していないのですから、壮大な計画です。具体的には中央政府と州政府がマイクロ灌漑設備購入費用の半分を負担する、というものです(残り半分は農民負担)。

初期投資は割高でも、マイクロ灌漑を導入すると、その他のもっとお金のかからない灌漑(地表灌漑や湛水灌漑)に比べて、水だけでなく、肥料や労働力のインプットが少なくてすみます。2年間で初期投資は回収できると聞きました。

マイクロ灌漑には、点滴灌漑(上の図を参照)とマイクロスプリンクラー灌漑(スプリンクラー灌漑がもっと小さくなったやつ)があります。農作物によって使い分けます。要は、今まで広範囲にわたって水を余分に撒いていたのを、もっと水(と肥料)を浸透させる部分を必要なところだけに集中させ、無駄を防ぐということです。地表灌漑の水利用効率が30-40%、スプリンクラー灌漑の水利用効率が60-70%、マイクロ灌漑(点滴とマイクロスプリンクラー)の水利用効率が80-95%というのですから、大きな違いです。

インドの農民たちにマイクロ灌漑を広めるには、政府の補助金だけでなく、使い方や効果の教育も必要です。クライアントは毎日講習会を開いています。政府の役人も見学・聴講しにくるそうです。この企業はマイクロ灌漑以外に、マンゴジュースや乾燥タマネギの製造も行っており、原材料の供給者である農家と密接な関係を長年育んできたのも強みのようです。この2、3年で急成長し、先進国(米国やイスラエル)の企業を買収したり、アクティブに頑張っています。 ラ米やアフリカにも、もっともっと進出したいと言っています。

融資の期間(ローンの返済)は8年です。8年後灌漑導入が進み、インドの、そして世界の水不足が少しでも改善していることを願います。

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